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(88)分人論で読み解く映画「愛がなんだ」と深川麻衣の良さ


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(C)2019「愛がなんだ」製作委員会

愛がなんだ

会社の後輩に勧められて、一人で観てきました。

ケラケラ笑いながらずっと観てたんすけど、見終わった瞬間はあ〜金麦飲みてぇって感じで。それが、時間が経てば経つほど、金麦と共にじわじわ染みてきてることに気づく。

翌日にゴジラキングオブモンスターズ を観たのに、全然上書きされませんでした。なんか登場人物の心境とか、行動原理とかいろいろ考えてしまって、今もまだ残ってるんですよね。


トップ画像は、ゴジラよりもキングギドラよりも印象に残ってて、この映画で一番愛おしいラスト近くの「葉子の振り返り」。マジでここで惚れた。

ということで、以下ネタバレにも触れてるんで、観てない方はお任せします。

単なる恋愛あるある映画っていうよりかは、形にもなっていない恋愛、破片恋愛映画。テルちゃんとマモちゃんの関係って形に残るものにはしない。多分マモちゃんがさせない。あーいう関係って、二人でいるときに写真撮らないんですよね。。。(しみじみ)。。。でも、そんな恋愛の破片話って、そこらじゅうに落ちてて。実はあるあるなのかも。話題になるのもわかる。恋愛って好きって言って付き合ってって単純なものの方が少ないのかも。描き方がキラキラすぎず等身大で。治ったと思って忘れかけてた古傷に、時間をかけて染みこんでくる。そんな映画でしたね。

いろいろと「愛がなんだ」の記事とかインタビュー漁ったりしてる中で、たまむすびでの町山智浩さんの映画評が秀逸でした。これ聞いて、はっとしました。これは敬愛する芥川賞作家・平野啓一郎さんの「私とは何か『個人』から『分人』へ」で提唱されてる分人論が当てはまるなと。  

私とは何か――「個人」から「分人」へ (講談社現代新書)

私とは何か――「個人」から「分人」へ (講談社現代新書)

 

この本の内容をざっくり言うと「人間ってのは『個人』じゃなくて、他者とのコミュニケーションごとに作られる『分人』の集まりなんす」って考え方を説いてます。人間は不変な一個人ではなく、家族の前で、職場で、学校で、友達の前で、ツイッターで、あの場所で、恋人の前でっていうそれぞれ違う「分人」を使い分けていて、その構成比率によって「あなた」って言うものができているんやでと。ま、詳細は本読んでください。読みやすいし、めちゃくちゃおもろいんで、まじで必読。

この概念の中で平野さんが説明されてる愛とは「相手の存在が自分自身を愛せさせて、自分の存在が相手自身を愛せさせていること」みたいなことが書いてあって、つまりは「その人といる時の自分が好きかどうか」っていうシンプルな考えなんすよ。

 

これって、最近電撃結婚した山ちゃんと蒼井優にもつながっていて、ヒャダイン氏経由で蒼井優がまんまこのこと言っててたらしいんですよ。

平野啓一郎を敬愛しているオードリー若林が山ちゃんに話して、その山ちゃんが蒼井優に話したんかなぁと予想。ま、関係ない話題はおいといて、この分人論を使って愛がなんだを読み解くと、

 

狂人とも見えるテルちゃんは「マモちゃんが好きな自分が好き」なんだろうなぁってことです。マモちゃんという「好き」になれる対象を見つけて「あ、わたしってこんな自分になれるんだ」って発見して、嬉しかった。マモちゃんに呼ばれてすぐに家に向かっちゃう自分、会社休んであげちゃう自分、朝まで飲みに付き合ってあげちゃう自分をみつけちゃったんですよ。マモちゃんから突き放されてもその自分を忘れられないから、その「分人」を消したくないから、どんな形であってもマモちゃんとの繋がりは消したくないんだと。

ほんと「愛がなんだ」ですよ。

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(C)2019「愛がなんだ」製作委員会

でも、そうじゃないのはナカハラ。BBQをきっかけに、葉子の都合のいい相手だけではなく、見返りとしての「愛」を感じたくなった。いい意味でも悪い意味でも、いつも変わらない葉子。葉子にも自分の存在を感じたかった。本業のカメラで撮るってことは、葉子に自分の価値を認めて欲しかったんですよね。

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(C)2019「愛がなんだ」製作委員会

ナカハラはテルちゃんを似たような存在だと思っていた。葉子の前から姿を消す前にテルちゃんに会った。でもテルちゃんのマモちゃんに対しての思いは、見返りとか愛とかそんなもんじゃないじゃない「愛がなんだ」レベルにいて、ナカハラとは違った。いびつだけど幸せそうなテルコをみて「幸せってなんなんすかねぇ~」って。100点のセリフっすよ。 ナカハラが去り際に唾吐いたのも吐き出し先のない思いなんですよね。

(追記)※すんません「幸せになりたいっすね~」が正しいようです。そのあとの「うるせぇバァカ」のテルコのセリフが100点でしたね。

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(C)2019「愛がなんだ」製作委員会

そのあとの、ナカハラの救いとなるこのシーンは、この映画で一番好き。葉子登場シーンの「よっ」は、この映画一番の「よっ」やし、その後の「仲原青で検索したら」はもう泣ける。葉子もナカハラとの分人を求めていたんだと思う。マジで、この時の葉子は惚れる。

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(C)2019「愛がなんだ」製作委員会

葉子ってか深川麻衣の話になりますけど、朝ドラの「まんぷく」も観てました。ただ、全く認識してなかったし、いいなとも全く思ったことなかったのに、この映画の後、初めて「深川麻衣」の名前を検索した。やはり、はまり役ってあるんすねぇ。また、葉子を観にこの映画を観に行きたいもん。

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(C)2019「愛がなんだ」製作委員会

肝心な、成田凌はね。かっこいいっすからね。

町山さんのこの映画評でおもしろかったのがもう一つあって、小説ではマモちゃんは、かっこよくもなくどうしようもない描写だったらしく。マモちゃんが成田凌に見えてるのはテルコだけ説ってのは、マジで笑った。確かに、テルコが居るときにしか現れないから、そうなんかもなぁ。監督はマモちゃんをダメ男に描くために、成田凌から自然に出てくるモテ仕草を抑えまくったけど、アドリブの「指での追いケチャップ」は止められなかったってのが笑ったなぁ。

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(C)2019「愛がなんだ」製作委員会

江口のりこはね、相変わらずいいっすよね。この人いつも恋愛にちゃちゃいれてくる存在。本当にちょうどいい雰囲気と存在感もってるんすよね。

 

ポスターのおんぶといい、江口のりこの起用といい「ジョゼと虎と魚たち」オマージュもあるんでしょうなぁ。

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(C)2019「愛がなんだ」製作委員会

長くなったけど、良き映画でした。

 

点数:93点